作業療法士の為の幸福学、今回は「幸福とは何か?」というテーマです。
これまでの記事で述べてきた幸福に関する知見は「幸福になるにはどうすればいいのか、その要因と何か?」といった内容でした。
いずれも幸福とはどういう状態なのかという共通理解がない状態で語られているものでした。
アラン、ラッセル、ヒルティ、セリグマン、前野隆司氏が考える幸福とは同じものなのでしょうか?それとも幸福のイメージが違うなかで述べられていた要件なのでしょうか?
今回は哲学領域の知見から幸福とはどういう状態なのかをすこし探っていきたいと思います。
アリストテレスは「幸福とは最高の善である」と定義しています。
では善とは何かを勉強してみると、さらに倫理学、善とは?悪とは?とつながっていきます。
ここで登場するのが産業革命時代に現れたイギリスの哲学者ベンサムです。ベンサムは「最大多数の最大幸福」という言葉で有名な哲学者で現代民主主義や多数決の原理の原型となる立法の原理を提唱した人物です。
ベンサムは「快楽はそれ自体が善である」「苦痛はそれ自体悪である」とし、苦痛の回避と快楽の享受が人のすべての行動を支配する根本原理であるとしました。
そして「幸福=快楽」「苦痛=不幸」と単純に定義して、快楽の量に基づいた私益と公益のバランスをとる社会を提起しました。
その後同じくイギリスの哲学者スチュアート・ミルは快楽は量だけでなく質の重要性を唱えて、個別的な快楽=利己心の追求だけでなく、利他心=他者の快楽も満足させることが大事であるとして、精神的快楽こそ幸福であるとしています(以上は功利主義と呼ばれています)。
そして幸福とは何かという問いについて、現代の哲学者デレク・パーフィットは上記のベンサムが提起した「快楽説」を筆頭に、本人の欲求が満たされる「欲求実現説」、幸福を構成する要素が本人の快楽や欲求とは別に存在すると考える「客観的リスト説」の3つがあり、それぞれに幸福を説明する上での長所、短所があるとしています。
つまり幸福とは何かという問いは現代の哲学でも結論の出ていないテーマであるようです。
我々の幸福、目前の対象者の幸福はその人それぞれ、価値観や状況によって違うと言ってしまえば、思考停止になってしまいます。
そういった思考、態度での関わりは引き出しを失い、行き詰まってしまうかもしれません。
先人の幸福についての思索、多様な考えを学び知っておくことは、対象者の幸福についてより深く考え、支援するための手がかりを与えてくれます。
作業療法士は先人の幸福についての哲学的思考を学ばれることをお勧めします。
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