作業療法士の為の幸福学、前回⑧では幸福とは何か?、どういう状態なのか?というテーマで幸福の定義を哲学領域の知見から紹介しました。
そこでわかったことは未だその論議に結論がでていないということでした。
今回は、個人的に幸福の定義について、しっくりくる定義をしている書籍を読んだので、その内容について紹介します。
幸せな選択、不幸な選択――行動科学で最高の人生をデザインする
- 作者: ポール・ドーラン,中西真雄美
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/08/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ポール・ドーラン(経済学、行動科学の研修者)著の「幸せな選択・不幸な選択」という本のなかでドーランは幸福を「快楽とやりがいが持続すること」であると定義しています。
ドーランは人生や生活が幸福かどうか評価するのではなく、今経験していることに注意を向けるべきとして、幸福かどうかは注意を何に振り分けているかに依存すると説明しています。
幸福の定義として幸福は日常の中に見つけるものという考え方に準拠したものと言えるでしょう。
人間(動物一般)は本来的に生存のためにネガティブなものや経験に注意を向け、闘争か逃走という単純な行動様式を選択しやすい存在と言われています。
そのためネガティブな対象、経験に注意を向けやすい一方、ポジティブな経験に注意を向けにくいため、人生や生活のなかで経験として幸福を見出しにくいとしています。
ドーランは意識的にポジティブな経験に注意を向けることで自ら幸福をデザインするという表現をしています。
ポジティブな経験とはベンサムやミルが提起した快楽ですが、ドーランは快楽を静まりの側面(充足感、平穏)と高ぶりの側面(喜び、興奮)と説明しています。
ドーランが定義したもう一方の「やりがい」については、いうまでもなく達成感や意義を感じる経験です。
「やりがい」を感じるためには、決して快楽だけでは語れない側面があります。
やりがいを感じるためにはその過程において不安、恐怖、怒り、葛藤などベンサム、ミルがいった苦痛を伴う経験が必要です。
そういった苦痛、ネガティブな側面を乗り越える経験が達成感、満足感、意義を感じることにつながります。
我々自身の生活、人生を考え生きていく、そして対象者の生活、人生の再構築を支援を考える上で、快楽とやりがいがどういう状態にあるのかという視点をもつことが、健康と幸福を促進できる作業療法士の提供に寄与できると考えています。